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2010.11.12遊くんと竜牙さま

よくわからない生き物だ。


「竜牙おかえりーっ!!ねぇねぇお土産はぁ?」

近頃は修行から帰るとどこからともなく、必ずその幼い声が沸いてくる。
別段鬱陶しいとも思わないが構うのも面倒なので適当にあしらっているが―――
表情を見る限り、どういう訳か当人はこの対応で充分なようだ。

「ねぇねぇどこまで行ってたの??どんな修行した???」
「天童君、竜牙様はお疲れなのです。もっとも貴方が知るようなことでは…」
「うるさいなぁ、オジサンには聞いてないじゃん」

一段トーンの落ちた声音に、大道寺がグッと押し黙る。
言い包められたわけではない―――ただこいつとの会話は、立場上恐ろしく厄介なのだ。

「ねえねえ海?それとも山??滝を割ったりしたの??」
「………」
「…谷ですよ。近頃は専ら足場の悪い土地で、心身共に鍛えられているのです」
「へえええ~!!!さっすが竜牙!基本も忘れないよね♪うんうん♪」

だが了承しつつちらりと見やれば、毎度代わりに解説する。ご苦労なことだ。

「竜牙様、そろそろお部屋にお戻りください」
「…ああ」
「おやすみ竜牙~!今度は一緒に連れてってねー!!」

ぶんぶんと手を振っているそいつの姿を、まともに視界に捉えたことはなくとも、容易に想像がつくのはなぜだろう。少し考えて…面倒で、やめた。

「全く…天童君には困ったものです」
廊下の角を曲がり、隣の男は大仰にため息をついてみせた。

そういえばあいつ、天童遊は、日中は何をして過ごしているのだろう。
任務などという名目はあれど、自身が認めた程度の実力者が、充分に満足できる「任務」などそうそうあるまい。実際、退屈しているのではないか。

「…あいつを」
「はい?」
「同伴させる気などあるのか?」

「…ご冗談を」

間に若干の違和感を感じて横目で見やれば、思慮深げな紫暗の瞳が、反射の奥からこちらを見据えている。

「竜牙様の修行の危険度は、当の貴方が一番ご存知のはず―――修行中はヘリも退避、データは衛星から収集しております。天童君のような…――いえ、天童君といえど、お邪魔になることは間違いありません」
「…そうか」

なぜ、と。
なぜ、このような問いをしたのかと。当然聞かれるものだと思っていながら…答えの用意もしていなかった。己に問うてみたところで何も返って来はしない。強いて言うなら…気まぐれだろうか?
まさか本当に疲れているというのだろうか、この、俺が。
なにやらひどく―――面倒な気分だ。

「…あれ?竜牙??」

なぁんだ、帰ってきてたんだあ!と小さな影が走り寄って来るのはビルの裏手にある小さな仮設スタジアムだ。こんなところまで、一体どうやって見つけ出してくるのか。
以前あんまり不気味に思って探ってみれば、なるほど2つ3つ探知機が出てきたが、壊して以来の反応から考えると全て大道寺のものだったらしい。

「昨日あれからオジサンにもっかい頼んでみたんだけどさぁー、やっぱり一緒に行くのは無理だってさ!ちぇえー」
「…当然だ。貴様ごときの行くような生温い場所ではないということだ」
「むっ…そんなことないよ!ボクだって…そ、そりゃあ竜牙には負けちゃったけど…」

もごもごと、まだ言い足りないようだが口篭る。
意気が良い部分だけは気に入っているが、こいつは少々自信過剰だ。
今は実力で押し切っていても、いずれはそうやって足元をすくわれるだろう。

「ねえ、今日はどこ行ってきたの?お土産ある?」
「火山口だ。土産は…これだ」
「へええ~、火山口!うわぁ、想像するだけであっつそ~…って………え?」

しんと静まり返った方に視線をやれば、丸い瞳が、さらに丸くなっている。
聞いた張本人がなぜそこまで驚くのか。不可解だ。

「え、え?み、やげって…え?これ…」
「…落とすなよ。光に―――透かしてみろ」

おずおずと受け取ったそれほど大きくない黒い塊を、こちらに背を向ける形で月の光に透かせば、こちらからも確認できた―――鮮やかな緑。
「…う、わぁ…」

火山口に行ったのは無論初めてではない。幾数もの見目のいい石を見てきたが、当然それらに価値を覚えたことはなかった。ただなんとなく、今日は―――近頃繰り返されるせわしないせがみ文句を―――自身でもわからないが、思い出して、それで、不意に、なんとなく。

しばらくそうしている背中を眺めていたが、一向に動く気配が無い。
「…おい」
声を掛けても、反応がない。こんなことは初めてだった。
どういうことだ。寝たのか。そういう病気なのか。

ぐいと肩を引いてみれば、ぽかんといつも以上の間抜け面があるだけだった。
「…いらないなら、捨てろ、その辺に転がしてやればいい」
「っ…!ち、ちが、あの…竜牙…」

大事そうに片手を塞いだまま、もう片手で上着の裾を引いてくる。
―――ああ、これもだ。近頃よく覚える遠慮の無い感覚。

「…礼など必要ない。こんな石ころは嫌というほど転がっている、邪魔なだけだ」

だから―――
もし気に入ったのなら、今度は、自分の目で直に確かめてみろ。

それだけ伝えて去ろうとしたら、どうやらまだ裾が掴まれている。
ほんとうにわけのわからない生き物だ。
一体なんだと、そのとき初めて振り返って、そして。

これまた無遠慮に視界に飛び込んできた…嬉しそうな月明かりの緑色に、
無意識にこの石を選んだ己へようやく合点がいったのだった。

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